コンプレックスと向き合う 6

<自分の居場所 2>


息子がバイトにおいても着実に自分の居場所を確保していく一方で
娘の方は、学校のことが色々忙しく(生徒会にも入っているので)
なかなかバイト先を決められないまま時間が過ぎていた
そして夏休み
やっと事は動き始める

娘が色々考えて決めた勤務先は某リゾートホテル
業務内容は『客室の片付けと寝具準備』だ
2人一組で決められた部屋に布団を敷いてまわるこの仕事は
作業そのものは単純だが、とにかくスピードを要求されるので
仕事相手とタイミングを合わせることや
手早さ、要領のよさが重要視される
しかも組む相手は毎回違うのだから、そのたびに戸惑うこともある
だが、時給はかなりいい
それは、この業種はコンビニよりも更に人気がないためらしい

そこに今回娘が行くことに決めたきっかけは
中学3年夏休みの”職場体験学習”だった
その時、娘は友人2人と共にベッドメーキング業務に携わったが
他の職場ではほとんどお客様扱いだと言われる職場体験学習も
ここでは即戦力として使われ
本格的に汗水流して働いて帰ってきた
仕事はキツかったが、働いているとの実感が嬉しかったことと
そこの人たちから「高校生になったらバイトにおいで〜」と誘ってもらったことから
このたび本当に働きに行くことにしたわけだ

息子と同じく、娘もまた自分の居場所を早く確保したいと思っている
ここで働くメリットは、試験採用期間がなく、即戦力になれることだ
はじめてコンビニで働くようになった頃の息子は
自分がまだ掃除くらいしかできなくて
どんなにお店が忙しくても戦力外であることを寂しがっていた
”自分がそこで役に立っている”、”必要とされている”との実感のあるなしで
人の自信は全く違ってくる
心配性で自分に自信のない娘にとって
バイト初日からばりばり働ける職場は魅力だったし
実際に自信を持って働く自分の姿を鏡で見ながら
そんな自分を、いいね!と思ったと言う

さて、2人の様子を見ながら
彼らがそれぞれ世間一般の価値観を知った上で、自分の尺度で職種を評価し
自分の現実の姿と照らし合わせてバイト選びをしていることに
わたしはホッとする思いがした
職業に対する評価の元は多くは家庭で刷り込まれ
それが結果的には子どもの職業選びにおける選択肢を少なくしてしまうケースは
今も昔もよくあることだ
だが、その少ない選択肢の中に、もし自分に見合った居場所がなかったらどうなるだろうか
これは職業のみならず
学校を選択する上においても同じことが言えると思う

フリーターやニートの問題について
実際色んなケースに触れながらいつも考えさせられることは
その人が育つ過程で刷り込まれた価値観がコンプレックスの元となり
「こんな仕事なんかできるか」(あるいは「こんな学校なんか行けるか」)と
自ら生きる道を狭くしている現実だ
こういう感覚が一度出来上がってしまうと
親が子どもへ期待することをもうあきらめて「なんでもいいから働いてくれ」といっても
本人はなかなか気持ちが切り替えられない
そしてどんどん生きる自信も希望も失って、内側へ閉じこもってしまうのだ

自信というものはある日突然降ってわいてくるものではなく
日々の努力の積み重ねの上に成り立っている
”地道”とか”下積み”という言葉は
時代は移り変わっても決して死語にならないのは
それなくして人生は語れないからだろう

地道な生き方ができる人は、生きる自信を持っている
いざとなればどんな汚い仕事でもきつい仕事でもやる覚悟ができているなら
必ず生きる道がある
これをどうすれば子どもたちに伝えられるだろうかというのが
わたしのこれまでの教育の課題だったが
どうやらそれもそろそろ最終段階に入ってきた感じがする
昨年だったか、息子がバイト先で
ゴミ箱の(トイレ代わりに使われた)ペットボトルを素手で処理していると聞いた時は
こういうことが平気でできるようになれば大丈夫だと、ちょっと安心したものだ

結局、コンプレックスと向き合うには
世間の価値観とどう折り合いをつけるかが課題となるようだ
自分がどう思うかではなく
世間が、他人がどう思うかを基準に生きる人は少なくない
コンプレックス=劣等感から手っ取り早く逃れるために
世間は反対の優越感に浸る道を模索させようとするのだが
これがいわゆる「勝ち組思想」につながって
それがかえって自分の居場所を見失わせている現状もある
そういう惑わしに巻き込まれないように
常に冷静に物事を見つめていきたいと思う

                   
*****

紫のアンゲロニアがだいぶ咲きそろってきた
花が咲くまで待たされるのはよくあることだが
そのたびにどうなるのかと、ついイライラしたり心配したりする
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(2008.8.6.記)


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