音楽語り 2〜狂詩曲 Rhapsody


小学校を卒業した3月、わたしは祖父に連れられて
はじめて新幹線に乗って東京へ行った
高層ビルと繁華街に圧倒されながら
そこでわたしが買ってもらったお土産は小さなオカリナだった
どこでオカリナという楽器を知ったのかは自分でも覚えていない
もしかすると、単に一目ぼれだったのかもしれないが
わたしはその素朴な音色に惚れこんだ

「1」で書いたとおり
わたしの求める音楽は
”叙情的で哀愁漂う”
”今まで聞いたことがないような意外性”を持った
”ドラマチックで大げさ”な曲


オカリナのような楽器は、”叙情的で哀愁漂う”イメージにぴったりで
そのオカリナではじめて練習した曲は
16世紀のイングランド民謡『グリーンスリーブス』
日本の古い唱歌と同じく
わたしはアイルランドやイングランドの伝統歌(トラッド)が好きなのだ

一方、テレビをにぎわす歌謡曲にはあまり心惹かれるものがなかった
だから当然、芸能人にも興味がなくて
わたしの中で音楽とは、こうしたトラッドとクラッシックだけだったのが
ある日突然、そこへ全く知らないジャンルの音楽が飛び込んでくることになる
これがロックミュージックとの衝撃的な出会いだ

はじめて聴いた曲は、ピンク・フロイドの『原子心母』
ロックってただジャガジャガうるさいだけの不良の音楽だと思っていたので
(当時世間の先入観とはそういうものだった)
え?これってロックなの??とただびっくりしながら
何かもう新しい世界がさぁ〜っと目の前に開けた感じがして
12歳のわたしはそれから一気にロック道へとなだれ込んで行くのだった

このピンク・フロイドのようなロックはプログレッシブロック(略してプログレ)と呼ばれ
1960年代の後半から70年代にかけて大変な人気を博した
プログレはその名のとおり、先進的、前衛的で
クラッシックやジャズなどあらゆる音楽を取り込んだ実験的音楽だ
『原子心母』は23分もある大曲で
当時プログレ界にはこういった組曲形式の大作がたくさん生み出され
それを少人数のグループでしっかりライブでもやってしまう技量も素晴らしいものだった

以後は短期間のうちに、イエス、キング・クリムゾン、EL&Pとプログレの代表バンドを次々体験し
オーケストラの代わりに、当時最先端の楽器シンセサイザーを屈指する試みにも感激しつつ
もっと新しい音を新しい音楽を
既存の形式にとらわれない自由な音楽をと
それはちょうど新しい環境に踏み出すわたし自身への期待感にも似て
夢は限りなく広がっていくかに思えた

4月
私立中学に入学したわたしは
始まりからその学校につまづいていた
入学式の時に、はいていく規定のソックスの色が違ったのだ
この学校は中学部と高等部ではソックスの色が違っていて
わたしがその日はいていたのは高等部のものだった
そんなことも知らないくらい、元々その学校に対する熱意もなかったのかもしれないが
周囲の冷たい視線と、先生のお小言が心に痛くて
おまけに学校の校風も周りの雰囲気も違和感ありで
さっそくその日のうちにやめたくなった
でも、結局やめなかったのは、ロックの好きな友だちとの出会いがあったから
わたしは音楽に救われたのだ

で、わたしにとって最大の関心事であった合唱部の件だが
部活見学の日、まっ先に中学の合唱部へ行くと
そこにはすでにたくさんの部員が居て
更に大勢の新入生が押しかけていた
その光景を見ただけで、わたしはすでに気持ちが引けていた
基本的に、人が多いところは苦手なのだ
いや、合唱なんて大人数でやるものなのにそれじゃあ矛盾してると自分でも思うが
人と同じことをやるのはつまらないと思うひねくれた性格もあって
また、その時の見るからに真面目〜な練習風景もちょっとねぇ・・・
まあ、要するにここはわたしの居るところじゃあないなということであっさり退散してしまう、、、

というわけで
一体何のためにこの学校に来たのやら・・・と、トボトボ別の部活を見てまわるうちに
たどりついたのが、人数が少なく廃部寸前の落語研究班(略して落研)
ここは中高合同の部活で、その時高等部2年だった先輩の強烈なキャラクターに魅せられ
まさか居ついてしまうことになろうとは、人生わからないものだ

このお方
1970年代に流行っていた土田よしこの漫画『つる姫じゃ〜』の主人公の名前を高座名に持ち
落語が恐ろしく上手く
話を聞いているだけで頭の回転が非常に速いことがわかる
その上、ロック好きで、ミュージシャンの似顔絵漫画まで上手いとなれば
そんな変った人に出会ったことがなかったわたしが
まるで雲上人のごとく尊敬し、ついていくのは必然だった
わたしはどうも変った人を見るとふらふらついていきたくなるらしい
それは、無意識のうちに
わたし自身の感性とか感覚とかを共有できる仲間を探しているからなのだろう

かくして、わたしの中学生活は
当初の予定とは違う方向へと転がりだした
                                        

*****

素朴な音色のオカリナ
今は娘の所蔵になっている
ocarina2009202.jpg



(2009.2.2.記)


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