青春賛歌第二幕 10〜一歩一歩


一週間前、娘は久しぶりにイタリア人の名誉教授B先生のレッスンを受けていた
ご高齢ながらも気迫に満ちた妥協の許されない厳しいレッスンにも今はだいぶなれて
こんな風にやっていけばいいのかなと、少しずつ方向も見えてきたこの頃だが
後期試験用には難しい曲ばかりが並べられ
また、だんだんせまってくるクリスマスコンサートへの不安感もあって
いつもに増して肩がガチガチ&耳は絶不調・・・
と、まあ相変わらずいっぱいいっぱいな日々が続いている

このレッスンの翌日には
B先生主催の声楽グループ『カント・イタリアーノ』の演奏会があったが
娘自身はバイトの都合でどうしてもいけないため
急遽わたしが(夫も一緒に)代わりに聴きに行くことになった
B先生の指導を受けてきた方々の演奏を聞くことで
今後、娘がどのように変わっていくことが望ましいのか
わたしなりに感じ取ることができればいいなあと思ったわけだけど
その出演者の中には、わたしの高校時代の音楽の先生も含まれていてびっくり@@
あらまあ、あの先生もB先生の門下生だったのね〜

会場では、B先生にも直接お会いすることができ
80代半ばとは思えない、それはもう子どものようにきらきらした表情に
この先生にご縁があった娘は幸せ者だと感じずにはいられなかった
指導はただひたすら正しい呼吸方法による発声練習が中心で
自分で気持ちよく歌う派手な演奏は「叫んでるだけ」と即ダメ出しされるとのこと
どんな音域も、力で押さないで、叫ばないで、自然に、飲み込むように(?)発声する
このとても一夜にして体得できるわけではない世界へは
とにかく努力して一歩一歩近づいていくしかない
こうして、娘も何かが劇的に変わるわけではないものの
家での練習を聞くたびにいつも少しずつ違っている感じがするので
これが今後どうなっていくのか
この演奏会を聴きながら何となく想像してみたりもする

演奏会終了後には、もう一度B先生に挨拶して帰った
「みずほをよろしくお願いします」と頭を下げると
先生からは「楽しみね」と笑顔の返答
ちなみに、イタリア人はHの発音をしないので
娘の名前はそのまま『みずほ』とは呼ばれず
『みずお』とか『みずこ』とか、はたまた冗談で『みみず〜』とか色々あるようだ^^;
あと、『おちびちゃん』と言われることもあるらしいが、娘はそれも別に嫌じゃない
それは決してばかにされているんじゃなくて、親しみがこもっているのがわかるから

さて、ちょうど一週間前というと、息子はいつもの研究室にいた
本来土日は休みだけれど、その日は高校生の見学があったからだ
高校生に対して大学の研究室での実験を公開する機会はちょくちょくあるが
今回はじめてそういう場に立ち会った息子は苦笑混じりに言うのだった
「最先端研究の見学っていうことで集まった高校生には
薄暗い部屋でモニターを見つめながらひたすら手元のダイヤルを操作して一喜一憂する光景は
すごく地味で、これが最先端実験??!って思ったんじゃないかな〜』

一般的に、工学の世界は研究成果が一年後には形になる(製品化される)が
理学の世界は、50年後に形になるといわれるように
実際に日々繰り返される実験は一見とても地味なものが多いという
その地味な一歩一歩が50年積み重なって結果が出るとなれば
ノーベル賞をもらう人の年齢が70〜80歳を越えているケースが多いのもうなづける
しかもそういう成果を上げることができる人は本当にごくごく稀なわけで、、、

先日、ふと某大学理学部のHPにあるQ&Aに目が留まった
そこには、実利に結びつきにくい理学の分野に進むことを躊躇する高校生からの質問があったが
その答えがとても心に響く内容だったので
わたし自身の覚書として一部抜粋させてもらうことにしよう


 何かひとつの仕事を成し遂げられる能力を持ったひとは
 他の仕事でもその能力は発揮できるものです
 現時点では,将来の選択肢について情報が十分ではないかも知れませんが
 逆に「今,何かを選択したら将来が決まり,安泰」と期待するのも
 安易な考え方だと思いませんか
 大切なことは,何事にも真剣に向かっていることです
 いつか,チャンスがやってきたときにそれをものにします
 いつも成長していること,それが大切です
 ちなみに,「未熟」とは熟す過程にあることを意味します
 それには上限はありません
 年をとっても上を目指す「未熟者」でいたいものです



青春時代は、自分が未熟であることを特に恥と思わなくてもすむ時代だが
年をとるほど、何かに到達していないとダメだとあせる傾向がある
でも、若い時から、”年をとっても上を目指す「未熟者」”であることの重要性を知っていれば
その後の人生がずっと違ったものになるだろう

『歌に関して言えば、私たちはみんな死ぬまで、学生なのよ』
娘は、有名なオペラ歌手マリア・カラスのこの名言がとても好きだ
バイオリンやピアノなどの器楽奏者が十代でもすでに世界レベルに到達する人があるのと違って
歌の場合オペラ歌手として活躍するのは30〜50歳の人が多く
人の声も30歳までは変わっていく(熟していく)ものだという

先日のレッスンでもB先生から
「大学の4年間だけ歌えば良いの?それともずっと歌いたいの?!」と問われ
「ずっと歌いたいですっ!!」と即答したという娘
日本人じゃないB先生の質問にあいまいな答えは厳禁だ
そして即答したら、また一歩を踏み出し
ひたすら目標に向かって歩み続けるのだった

*****

種まき苗が
寒い中でも少しずつ少しずつ生長しつつ
春が来るのを待っている
こんなに小さな苗がどうなるやらといつも思うが
春になれば一気に生長するから驚きだ
植物を育てていると
「地道」という言葉が決して空しいものではないと感じる





(2010.12.4.記)



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