青春讃歌 26〜明日への一歩


今日は音楽教室の合同発表会があり
娘は生徒の一番最後に登場して2曲歌った
『ながさきピアノアカデミー』で声楽を習って丸9年
今後もやめるわけではないものの
当面は大学が忙しく定期的にレッスンに通うことはできなくなるので
今回の発表会は一区切りとなることから
こうして重要なポジションにおいてもらえたのは
非常にうれしくありがたいことだった

ドレスは、新作の黒ドレスのお披露目は先送りし
インパクトの強い、あの『カルメン』で使った赤にした
(見る人は全然違うので、赤いドレスもここでは初披露)
髪型も、いつものアップスタイルを卒業し
縦巻きで片方へ流すスタイルにしてみる

で、肝心の歌のほうだが
本番までの一週間、結局練習は一度しかしなかった
しかもその出来は不調で、のども耳も具合がよくない
とはいえ、まあ元々練習というものをろくにせず
9年間ここまでやってきたようなものだから(苦笑
今更あせることもないかということで
この一週間は毎日あちこちでかけることに費やした

まず最初は、昔のピアノの先生に会いに行くことからはじまった
保育園時代から7年お世話になったこの先生との出会いがなければ
娘は音楽を楽しいと思い、その道に進むこともなかったかもしれない
それほど影響を与え、きっかけを作ってもらった恩は忘れていないのだ

3人の男の子の母である先生は、娘を実の娘のようにかわいがり
その感性を育てるべく、楽しくピアノを弾かせてくださった
だから娘は先生が大好きで、ピアノも喜んで弾いたが
発表会で『剣の舞』を弾いたのを最後に
もう一生懸命練習をしないとこの先続けられないと敏感に感じたのだろう
突然やめたいと言い出した
「もう弾きたくない」という娘をわたしはとめるつもりはなかったが
今考えれば先生にはあまりに突然で、失礼なことをしてしまったと思う

あれから7年がたち、娘も大人になった
今なら、なぜあの時「もう弾きたくない」と思ったのかを先生にちゃんと説明できる
指導者は、生徒が離れていく時、その原因をしばしば自分の指導力の欠如と考えるが
生徒には生徒の側の、子どもであれば尚更うまく伝えられない心の葛藤があるのだ
それはどんな優秀な指導者がついていてもどうしようもない世界で
結局は生徒本人が乗り越えなければならないところ
要するに、娘はその時ピアノから逃げただけで
つまり、根がわたしに似て横着なものだから、練習がしたくないだけだったのだ

よく人は「やればできるのに、どうしてやらないのか」と簡単にいうが
練習をすることも才能の一つ
実際に毎日何時間もピアノを弾くことを苦にしない才能を持っている人だけが
ピアノの道に進むのが常だ

昨年末の音大のピアノレッスンの際
娘のピアノを聴いた音大の先生は、あわせてそのピアノ歴を聞き
ここまでピアノ練習を放置してきたのはもったいないと
入学後は基本からやりなおすよう勧められた

ここまでくればもう後戻りは出来ない
でも、今はもう嫌いな練習もする覚悟はできている
声楽専攻の人たちでも、まずみんなピアノは結構なレベルで弾けるものだ
だから周りの人々の中で自分が一番弾けないのはわかっているだけに
中途半端なプライドがない分かえって気が楽でもある

どのみち、声楽についても
みんな今まで習ってきたスタイルをいったん崩されて
これから新たに再構築されていくわけだ
自分はできると思っている人ほどそれは辛いもので
色んな葛藤がそこにはあるだろう

「おのれに死ねばいいのよぉ〜〜♪」と娘は笑いながら言う
教会でいつも耳にタコができるくらい聞いてきたこの言葉は
これまでも友人たちから悩みを振られた際に返答に窮すると
冗談めかして使うこともあった
青春時代の悩みの大半は人間関係で
多くの人が、自分が他人からどう思われるかいつも悩んでいる
普通の人にとって、“己に死ぬ”なんて、普段聞くこともない言葉だけに
「へっ?!」っと、目を丸くして無言になる子もいれば
その一言で、「ああそうか!」と納得する子もいるらしい
娘自身、人の悩みを聞くだけならまだしも、受け入れるほどの余裕はなく
自分のことも十分“めんどくさい人間”と思っているだけに
そこで解決する当てのない不毛の議論もしたくないのだ
腹が立っても情けなくても悔しくても納得いかなくても許せなくても
前を向いて進むためには“己に死ぬ”、これ最強。

さて、久しぶりに昔のピアノの先生に会って
先生に伴奏を弾いてもらいながら歌うのは楽しかった
一度は分かれた道も、時が来ればまた交わることもある
こういう形で再び先生に会い、あらためてお礼が言えたのは良かったと思う
都会であれ田舎であれ、個人でピアノを教えている先生たちは
音楽家としての自分が置かれた厳しい現実に悩むことも多い
それはいずれ娘自身も通る道
先生から聞いた話は大切に心にしまっておく

翌日からは3日連続のアルバイト
その後は、5年ぶりにわたしの父の故郷を訪ね
ここでも懐かしい人々に会い、懐かしい山を歩いた
こうして自然の中で心洗われて帰宅し
翌日は、高校の吹奏楽部の定期演奏会を聴きに行く
ここでは卒業した音楽仲間が最後の出演をして、ソロ演奏もあった
その力の入った演奏に触発されて
自分も発表会で頑張ろうという気持ちになっていく

次の日は最後のレッスン日
練習はあまりせず、大半はお話で終わった
もうこのままで大丈夫だからとのGOサインに安堵する
翌日は少し風邪気味だが、アルバイトは休めない
ここへきてノドの調子が怪しくなってややあせる

そして発表会前日になった
寒いし、毎日忙しくて体調はいまいちながら
美術館へ『ムーミン原画展』を見に行く
昔からムーミンファンの娘はどうしてもこれに行っておきたかった
実はわたしも先日、高校時代の友達とこの原画展へ行き
想像以上に良かったので、ぜひ娘にも行かせたいと思っていたのだ
3時間ほどどっぷりムーミンの世界に浸って帰った娘は
「すごく良かった!もうここまでムーミンでいっぱい〜」と
胸の辺りまで浸かっているジェスチャーをする
これでテンションは一気に上がった

原画展の記念に、風呂敷を買い、今回たちまちドレスを包むのに使う
moomin2010327.jpg

原作は以前からほとんど持っていて
中でも娘のお勧めは『ムーミン谷の彗星』と『ムーミン谷の十一月』だそうだが
ムーミンは昔のTVアニメシリーズしか知らないわたしはまだ読んだことがない

こうして、忙しく充実した一週間は過ぎ
発表会の日はやってきた
低音から高音まで幅広くカバーできる歌い手を目指す娘は
この曲を自分の持ち歌としていきたいと願っている
舞台ではいつも今できる精一杯の歌をと、何より悔いが残らないことを祈るが
今回もまた少し成長した姿で記録を残せたのは良かった
たくさんの人たちから「これからが楽しみね」「頑張って」と励ましの言葉をもらいながら
会場を後にする

明日からはいよいよ大学のガイダンスがはじまり
スーツデビューもする娘
今日の一歩が明日へとつながって
青春舞台は幕を変えながら、登場人物も新たに進んで行く



(2010.3.28.記)



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