青春賛歌第二幕 12〜転がり続けること


大晦日の夜、なにかしみじみした様子で
「今年は激動の一年だったなあ〜、、まあ来年からも激動だけどね」
と言っていた息子は
4日までのお正月休みを主に卒論書きとバイトで過ごした後
一ヵ月後に迫った卒論締め切りに向けて活動を再開した

年末には実験が意外にいい方向へと進んだことに気を良くして
このまま休み返上で学校へ行こうとしていたけれど
寒波到来による雪と寒さで断念している間に
テンションもやや下がり気味になってしまった
「一度エンジンを切ると温まるまで時間がかかる」
5日の朝はそう言いながら大儀そうに出かけていく

この超就職氷河期の中で同級生が苦労する中
息子自身も今年はいよいよ就職活動開始の年
今年から就活の開始を12月以降へと変更することが倫理憲章に明記されるとはいえ
だからといって雇用状況が良くなる見通しがついているわけでもないし
これから一体何が起こるかわからない激動の予感は今年も常にある

昨年夏、大学院の入試を終えた息子は
就職が決まった高校時代の友人と共に久しぶりに母校を訪ねた
当時の担任の先生に会ってそれぞれの行く先を報告すると
先生は喜んで激励してくださる一方で
現在母校の抱える問題も色々教えてくださったようだ
少子化により、特に私立校はどの学校においても運営状況は厳しくなっており
これからの時代をどう生き残っていくのか
そのためにどうすれば良いのかとの課題が山積している
かつて息子が入った高校からの入学枠は今年から廃止され
これからは中学受験のみにしぼられるようだ
昔はああだったこうだったと、昔を懐かしんでいたのでは前へは進めない
今はただ生き残りをかけて母校もまた激動の一年が始まっている

そう、”昔を懐かしむ”といえば
わたし自身も(きっと夫も)そうなのだが
子どもたちはどちらも小中高校時代を通して友達もたくさんいたし
それなりに楽しい思い出もあるにもかかわらず
どの時代にも戻りたいとは思うことがない
年末年始にかけて娘は高校のクラス会や中学時代の友人の集まりに参加し
久しぶりの再会のひとときを大いに楽しんだけれど
それはその時だけのこと
今は今
そして、重要なのはやはり今の自分がどうあるか、で
過去を決してないがしろにするつもりはないが
(思い出は思い出として大切にとっておいて)
過ぎた時代に固執する気にはならないのだ

5日には、娘も新年初レッスンを受けにB先生のもとに行った
そこでDVDやCDを渡されたが
その中には先月放送された地元のラジオ番組の録音CDもあった
内容は、86歳という高齢でなお指導者として精力的に活動を続けるB先生へのインタビューだ
60年前にイタリアから日本へ来た時
イタリアの抜けるような青い空に比べて日本の空はとても地味だった・・・と
当時のことから現在の活動に至るまでのことを
ひとつひとつ質問に答える形式で番組が進められる中
最後にこんな質問があった
「もし神さまが、あなたの望む年齢にしてあげますよと言われたら
何歳の自分になって何をしたいですか?」
するとB先生は勢いよく即答する
「もうええよっ!(←ここ広島弁イントネーション)今が一番いい
今のままもう少し、このまま活動を続けたい、ちょっとでも長くね」

かつてたくさんの弟子を指導し、世に送り出してきたことも
さまざまな本を書いてきたことも
色々なところで認められてきたことも
それはそれで良い思い出ではあるけれど
すべては過ぎ去っていく過去だ・・と
その感覚はわたしとしても多いに共感するものだった

レッスンに行くたびに
「ボクはもう明日天国に行きますから」が口癖のB先生
今日、今、ちゃんと真剣にレッスン受けなかったら次はないかもよ〜という雰囲気を娘は毎回感じている
名前が呼びにくいので、すっかり”おちびちゃん”で定着してしまった娘は
本当にB先生にとって最年少の弟子
先月やっと弟子名簿のファイルに名前を入れてもらったところだ
5月に初めてレッスンを受けた時には
怖くて怖くて次のレッスンに行くのも決死の覚悟(?)が必要な状態だったが
(いや、冗談抜きで実際に2度目がない学生も多いらしい)
今はすっかりフレンドリーになって、次の機会を楽しみにしている
というか、自分から積極的に行かなければさっさと疎遠になってしまうとか?!^^;
まあ根っからの芸術家とはしばしば気難しく、かつ愛と熱意にあふれているものだ
B先生の日常の言動は、聞くだけでまるで漫画を読んでいるように面白い
今日のレッスンはどうだったと話を聞くのが
いつしかわたしの楽しみの一つになった

年頭に当たり、わたし自身も
今やっていることを細々とでも長く続けて行こうと改めて決意している
ふと思うのは
「転がり続けなければ」ということ

昔、英語で習ったことわざ
『A rolling stone gathers no moss (転石、苔むさず)』には解釈が二通りあり

・落ち着きなく動き回っているものには能力は身につかない(イギリスや日本)

・いつも活動的に動き回っている人は持っている能力を錆び付かせることはない(アメリカ)

というように、国によって(考え方が保守的か革新的かで)反対の解釈がなされているようだが
わたしとしては今回後者の意味でこの言葉を使いたい

shune2011107.jpg

一年中咲き続けてきたシュネープリンセス
この季節の花には
緑色を帯びた独特の美しさがある

バラを育てて10年
それは新しいことを求めて
ずっと転がり続ける日々だった

先の結果が見えないことも
かえって楽しみにつながった

人生もこんな風に楽しめたらなら
なんて幸せなことだろうと思う



(2011.1.7.記)



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