青春賛歌第三幕 10〜教育実習 3


教育実習ラストの日となる今日は
台風接近に伴う大雨で警報が発令されて臨時休校となり
生徒たちに最後のあいさつも出来ずに去っていくことが
何より心残りだと娘はしきりに残念がった

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そうじ時間の合間には
ある生徒たちが腕組みして片足で立ちあがれるかどうかやっていて
「先生は音楽の先生だからこんなのできないだろう?!」と言うものだから
そんなの簡単よ〜とばかりあっさりやってのけたり
腕ずもうを挑んできた男子に勝ったりと
彼らが音楽の先生に対して抱いているヤワなイメージとは全然違う娘の実態に
驚いたり喜んだりして盛り上がる様子は
娘にとっても楽しい思い出になった

小学生のころ男子とばかり遊んでいた娘は
当時毎日のように腹筋や腕立てふせで筋トレし
中学でも腕ずもうで負けた相手はただひとりの男子しかいなかった
しかも娘の場合、利き手は左だが、腕ずもうは皆に合わせて右でやっている
そして、高校になってもまだ男子相手に勝っていたが
さすがに音大に入ってからは封印していた(?)腕ずもうパワーが
こんなところで生徒とのコミュニケーションに役に立つとは
人間いろいろ自分のできることを発掘しておくと損はないなと思う

今週初めには
教育実習生から高校生に向けて
『今までに後悔したこと、今がんばっていること』についてスピーチする時間があり
音楽科の実習生たちは、ほぼ同じようなことを語った

”好きな音楽をやってきたから後悔することは何もない
 今居る場所で、今の自分ができることを一生懸命やっていけば
 必ず何か得るものがある
 高校生のみんなが、もしこの先、仮に第一志望の場所に行けなかったとしても
 そこでできること、頑張れることが必ずあるので
 いつも今を大切にして前向きに進んでほしい”

先週の合唱祭以来
娘の名前を知らない生徒たちは
娘に会うと「オペラの人」と呼ぶようになった
あるいは「しいたけ」とも?!

なぜ「しいたけ」なのかと言えば
バナナ、キャベツ、しいたけ、ポンカン、ピーナッツの名前を
リズムに合わせて歌うボイスパーカッションの曲『野菜の気持ち』を授業でやった際
「しいたけ」を娘が担当したからだ
しかも娘の歌う「しいたけ」は非常に情熱的で相当インパクトがあったらしい

娘にとって普通や無難とは、すなわち面白みがない事を意味している
ウケねらいと言ってしまえばそうなのかもしれないが
何より面白くやらなければ自分自身が楽しくない
初めての授業では
遠慮して自分をあまり出さなかったけれど
もっと思い切ってやってもいいと先生から後押しされたこともあり
だんだん自分の「素」を出すごとに授業は盛り上がり
なんだそのままの自分でやればいいのかとわかれば
後はすべてがスムーズに進んだ

娘は、昔から”生徒と一緒に遊ぶ先生”が好きだった
だから自分もそうありたいと思っている
それでも、実習の最初にはピアノ伴奏の事ばかりが気にかかり
つまりは、失敗したらどうしよう?!という
自分の見栄の問題にひっかかっていたわけだが
実際に評価されるのはその人の持ち味なのだと
ならば今持っているものを注ぎこんでいこうじゃないかと
楽しい授業を目指して
音楽教師を演じるエンターテイナーになっていく

振り返れば
この3週間は、《教育実習》という題名の劇のようなものだった
ラストシーンは
ここまで指導してもらった音楽の先生に対して
実習生たちが用意したサプライズの数え唄を歌う場面だ
ここでは歌っている本人たちが泣きだして
肝心の先生は笑っていた・・とまあ最後までクールな先生ながら
「これから寂しくなるわ」とぽつんと語る言葉に
先生の心情を読み取ることができる

そして、先生から最後に一言
「4年生は(授業が少なくて)ヒマでしょう?!
なぜヒマなのかその意味をよく考えて下さい
それぞれ卒業までにどれだけ演奏技術を磨くことができるか
これからが大切な時です」

娘が高校を卒業してから間もなく
この高校の特徴であった”自由選択制”という制度は廃止となり
娘たちのような芸術の道を目指す生徒に対して
特別な授業が提供されることもなくなった
毎年、合唱祭の時には
音楽選択者が華やかな衣装を着てソロ演奏をするチャンスが与えられてきたが
それも娘たちの学年以降、出演者はいないそうだ
だからこそ、4年前に出演した娘たちが再び帰ってきて舞台に立つことを
先生方もとても喜んで下さったわけで
こうして音楽科の実習生が今後この高校に来ることも
そして、実習生が合唱祭の舞台で演奏することも
稀なことになるのかもしれない
ひとつの時代の区切りに自分たちが居て
その時にしか出来ない経験ができたことを
娘はずっと忘れないだろう


(2013.6.21.記)



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