青春賛歌第三幕 14〜コンクールに学ぶ


この夏、娘は大学に入って初めてコンクールに参加しており
一昨日には西日本大会である「准本選」出場のため
台風が迫ってくる大雨の中、兵庫へと出かけた

7月の地区大会の時は
優秀賞をもらって通過したものの
審査員の先生方からは
華やかなタイプの選曲が娘のイメージにあっていないと指摘されたので
准本選には、”嘆きの歌”である『あの石に刻んだ時/ベッリーニ作』を選んだ

また、その曲の雰囲気に沿うように
ドレスの袖も、はかないイメージを大切にして透けた素材を使う
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透けたオーガンジーの布だけではもの足らないので
控え目にスパンコールのついたブレードで縁取ると
適度に曲線が描けて良い感じになった
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ところが、こうして準備も整い、練習も十分重ねて
後は行って歌うだけという本番三日前
いきなりノドを痛めてしまいムードは暗転、、
それでも「こうして色々あってもいつも最後は上手くいくから」と
希望をもって娘は出かけて行った

とはいえ、コンクールで遠隔地に行くのも初めてだし
その上、初めて公式伴奏者と演奏するのもかなり不安だったが
いつも伴奏をお願いしている先輩から
公式伴奏者に短時間でこちらの要望を如何に伝えるかを伝授してもらったので
前日の15分しかないリハーサル時間も無駄なく使うことができた
もちろん公式伴奏者は大ベテランのプロだから
伝えきれなかった部分も、本番では娘に上手く合わせて歌を引き立ててくれたし
こうして娘の「きっと上手くいく」という希望は
たくさんの助けと共に答えられていく

本番の出来は、娘の自己採点によれば60点くらい
ノドの調子がやはり完全には戻らず
出だしの低音部が弱くなってしまった事と
どうしても緊張して無駄なエネルギーを使い
スタミナ不足のため最後がやや盛り上がりに欠けた
それでも、この曲をここまで自分なりに作り上げてきたことには満足しており
少なくとも自分の思う半分以上の演奏はできたと評価する

今回、娘がこのコンクールに参加するにあたり
目標は、とにかく全国大会である東京の「本選」に出場することにあった
それは、准本選を通過して本選に出場した者には
全員に「本選入選」の肩書が与えられるからだ

音楽(特にクラッシック)の世界には
活動実績やコンクール受賞歴などが記されたプロフィールがつきものだが
娘にはまだ自分のプロフィールに書けるコンクール実績がない
昨年、学内の演奏会オーデションに合格したのも実績の一つではあるけれど
やはり広く一般に開かれたコンクールでの実績が何か欲しいと思う

音楽家として信用されるには
その人がどこの音楽大学在学(卒業)かという名前よりも
どんな演奏をするのかという実績が重要だ
かといってみんなの前でいちいち演奏する機会もないので
プロフィールに書かれた実績はその人を信用する入り口の役目を果たしている
信用があれば、とりあえず演奏するチャンスも広がって
また更に実績を積んでいく道も開けていくだろう
ただし、その信用に答えられなかったらそれはそれで大変なわけで
実績をあげた人ほど重荷を背負っていくことにもなるから大変だ

それでも、今はまだ何も持たない身だから
娘は今回とにかく准本選を通過したかった
地区大会で優秀賞をもらっていても
その成績が准本選に加味されるわけではないし
リハーサルや本番で他の参加者が
技巧を凝らしたオペラ・アリアを歌っているのを聞くと
地味な歌曲でどこまでアピールできるのか不安になってくる
もともと自信がない心配性なのだから
こういう場に出るとますます気持ちが引けてしまうのも当然だろう

大学生の部が終わり、続いて高校生の部が終わってから
いよいよ審査結果が発表される
その頃、わたしもケイタイを傍において娘からの電話を待っていた
そして娘の興奮した声がこう告げる


「お母さん!一位で通過した!!神戸新聞社賞をもらったよ!!!」


(小メダルは地区大会優秀賞、大きい方は准本選入選、神戸新聞社賞は一位の証)
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いやはやこの展開にはこちらも驚くやら感謝するやら
とにかくびっくりして夕食がのどを通らなくなったほどだ(笑)

よかった
これで念願の「本選入選」は確定した
しかも一位のおまけつきとなれば
さすがに自信のない娘でも
自分の歌が一般に通用することを確認できただろう

結果発表は上位から始まったので
大学生の部で一番に名前を呼ばれた娘は非常に戸惑い
猫背でこそこそ恥ずかしそうにするいつものクセが出たらしく
後から審査員の先生方に講評を聞きに行った際
「あなたは今日からその自信のない自分をやめさない」
と言われたらしい(笑)

講評の内容は、娘の予想に反してかなり好意的なものだった
ただ、出だしの低音部の不調については「どうしたの」と問われたので
ノドを痛めている事を告げると
本選までに治して来るようにと言われただけで
「声がとても美しい」
「自分なりに曲をよく作り上げている」
「伝えたいことがこちらにも伝わる歌」
「この渋い曲をよくここまで聞かせた」など
当然ダメ出しが連発されると思っていた娘にとっては
驚くほど高い評価をしてもらっている事が本当に有難く
続く励ましの言葉を通して
その高い評価点には
”まだまだやれるはず””もっと自分の良さを出して”と
本選までにはもっと自分を磨いて
更に良い演奏をするようにという期待感が込められている事が伝わってくる
要するに、今後の見込み点(のびしろ)も含めての評価ということ

娘自身は今回の結果を感謝しつつも冷静に受け止めている
正直なところ本当に自分がもらってもよかったのか?!とも思うようだ
では何のために一位をもらったのだろうか
それは、本来コンクールとは
決して誰かと比べて競い合うのではなく
自分自身と正直に向き合い
背伸びせず、自分にあった曲を選んで
そこに精一杯集中していくことで
今まで自分の中に隠れていたものが現れて
それが不思議な魅力として相手の心に響くことを
娘自身が知るためなのだと思う

実際に、このコンクールでは
HPの中でも
 ”例年、実力以上の高音やコロラトゥーラ等を選ぶ受験者も少なくないが
 挑戦よりも演奏の仕上がりが審査対象である事を顧みて
 「自分が最も上手に歌える歌」を選曲する事。”と
難しい曲で派手なアピールをすることを戒めている

それでも多くの人は難しい曲を選んでいた
きっと日常的にもそういう曲を歌っているのだろう
そして、娘はそれを聞いて自分はダメかも?と心が揺れたが
地区大会の時の講評を素直に受け入れて
コンクールでは滅多にお目にかからないような地味な曲であっても
自分の個性が生きる曲を選んで良かった

「従う」ということは
例え内容は簡単な事でも
実際に踏み出すには勇気が必要だ
それが自分のプライドに関わる事ならなおさら難しい
そんな時に娘は、聖書の言葉を引用して
「己(おのれ)に死ねばいいのよ〜」と
昔から冗談のように言ってきたけれど
今はその意味が身にしみてわかるだろう

来月の本選では
規定でオペラ・アリアを一曲入れなくてはならない(全2曲)
すでに選曲はすんでおり
こちらもやはりコンクール向けではない渋い曲だが
かなり高音も入って今回よりもアピールできる曲になっている
もちろん娘の好きな曲だから
すでにやる気満々だ

今回こうしてコンクールに参加してみて
自分は一応ソプラノだけど
自分の声も選曲も他の人とはタイプが全然違っていて
これじゃあ誰とも比べられないわ・・と娘はつくづく実感した
後はもう自分が本選までにどのくらい成長できるかが問題で
戦う相手は自分自身しかいないこともはっきりわかる
本選の結果がどうであろうと
この経験は娘の人生に必ず生きてくるだろう

今回の音源を、また花の画像と合わせてアップしてみた
一ヶ月後にはまたぐっと成長している事を期待しつつ・・


「あの石に刻んだ時」/ベッリーニ(←題名をクリックするとyoutubeサイトへ)


ちなみに、今回のドレスは周りから随分ほめられたとのことで
それもまた嬉しかった
実は10月になったら次のドレスを作る予定だが
わたしも自信のない自分を卒業して
これまでよりもバージョンアップした作品にしたいと意気込んでいる


(2013.9.3.記)



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