無農薬無肥料栽培への道31〜わたしが発酵肥料に挫折した訳 1 (6月17日)

最近、「発酵肥料のつくり方・使い方/薄上秀男著」を読んでいる
この本はもう何度も読んだはずだけど
読むたびに新鮮で、ああそうなのかと気づかされることが多いのは
意味をちゃんと理解していなかったということに他ならない

で、何で今さら発酵肥料なのかという話だが
別にまた作ってみようというわけではなく
なぜわたしがあれほど入れ込んでいた発酵肥料に挫折したのか
一度きちんと検証しておきたいと思うのだ

というのも、『発酵肥料』で検索すると
なんと、うちのサイトが2番目にヒットするという事実に数ヶ月前気づき愕然としたわけで・・・
正直なところ、あのページ全部削除してしまおうかと思ったくらいだが
自分にとって思い出深い記録ページでもあるので
とりあえず、〜『発酵肥料』で検索してこられた皆様へ〜の但書きを追加し、残すことにした

さて、そもそもわたしがなぜ発酵肥料にハマったかというと
思い返せば10年前、バラ栽培を始めるにあたって某バラ園の肥料を取りそろえたはいいけれど
そのまま続けるにはあまりに肥料代がかかりすぎると恐れをなし
他に何か良い肥料はないものかと探し始めたところ
2003年正月、無農薬栽培を目指したいとの願いから、まず生ゴミ堆肥作りを開始
そこから微生物の魅力にだんだんとりこになっていき、やがて発酵肥料にたどり着く
この頃、バラを育てている人たちにバイオゴールドなる肥料が人気と知ったが
値段が高いので採用はせず
ただ素人判断で、バイオゴールドって発酵肥料と同じようなもんじゃないの?
じゃあ自分でそれらしいものを作ろう!
と、意気揚々と発酵肥料作りのスタートをきったわけだ

その後、2006年までの3年間に、この肥料作りを何度となく繰り返したが
結局、本に書いてあるとおりの”芳醇な香りの”発酵肥料は一度もできなかった
これは、本のQ&Aによれば「失敗」とはっきり記されている
(以下、青字は薄上本からの抜粋)

   「香りに変化はあっても、芳醇な香りがしてくるのが正常な発酵であって
   悪臭が漂うものは失敗です」


薄上氏の提唱する発酵肥料とは
いわゆる「ぼかし肥料」のような
有機質肥料を発酵させることで、有機態のチッソを無機化して植物に吸収させやすくし
肥料に即効性を持たせるのが目的ではない

    「私は、有機質肥料を発酵させて利用する意味は
    有機態を無機化することにあるのではなく
    その発酵の過程で微生物がつくりだしてくれる各種のアミノ酸、ホルモン
    酵素、ビタミン、有機酸、その他の生育促進物質にあると考えます」
   

油かすをしばらく水に漬けておくと、くさいニオイを発生するようになる
これは、油かすに含まれるタンパク質が分解(無機化)されてアンモニア〜硝酸を生成するからで
できた硝酸態チッソ(無機態チッソ)を植物が吸収して生長するわけだ
そして、硝酸態チッソを肥料にしたのが化学肥料
要するに、有機質肥料であっても
分解が進めば最後は化学肥料と同じ硝酸態チッソになり植物に吸収されるため
「ぼかし肥料」は、この分解の過程を人為的に促進させて
有機質肥料に即効性をもたせている

一方、発酵肥料では有機質肥料を無機化させず
タンパク質はアミノ酸(有機態チッソ)の状態にあるため
本来アンモニア臭は発生しない
だから、悪臭が発生したらそれは失敗というのだ
そして、わたしは何度つくってもそのたびに悪臭を発生させてしまっていた

また、わたしが発酵肥料に限りない魅力を感じたのは
まさに上に抜粋したとおり、植物の生長に欠かせない各種の成分を
発酵の過程で微生物がつくりだしてくれることにあった

植物の生長にはたくさんの養分やミネラルが関わっており
主要メンバーは
窒素 ホウ素 カリウム 硫黄 水素 マグネシウム 鉄 リン
マンガン ニッケル 銅 炭素 カルシウム モリブデン 亜鉛 酸素 塩素
そして、これらの過不足やアンバランスによって
生長不良や生理障害が起きてくる

中でも実に面倒なのは、カリウムとマグネシウムとカルシウムのように拮抗作用があるものだ
これは、土壌中にカリウムやカルシウムが多量にあると
マグネシウムがあっても作物が利用しにくくなる=不足するというもの
こうなってくると、もう素人はとりあえず不足しているものを足すことしかできない
そこで必要となるのは何種類もの肥料だが
じゃあ一体どれだけ足せば良いのかは、プロだって判断に困るところで
正確に把握するには土壌診断が必要になる
結局、薄上氏も、この肥料バランスの追いかけっこに行き詰まり
発酵肥料にたどり着いたという

有機質肥料を発酵させることで
微生物の力によって植物の生長に必要な養分がすべて生み出され
しかも、それぞれ過不足ないようにバランスまで自然にとってくれる発酵肥料は
これはもう夢の肥料だとわたしも少なからず心ときめいた

ところが、自分で実際に発酵肥料を作って使ってみたところ
トマトにはカルシウム不足で発生する”尻腐れ病”が起こり
バラは、剪定後の新芽の動きが悪く、マグネシウムを入れたらやっと動き始める始末、、
葉緑素合成に必要なチッソや
鉄・亜鉛・ マンガンなどのミネラルが不足して起こるクロロシスもたびたび出現
これでは結局、他の肥料や微量要素の資材などを追加して対処するしかないわけで
できた肥料は期待したような夢の万能肥料からは程遠いシロモノとなったのだった

だからといって、発酵肥料そのものに本に書かれているような効果がないとは思っていない
今こうして本を読み返すと、その思いは更に強まってくる
ではなぜわたしが作ったものはダメだったのか
答えは簡単、作り方がマズかったからだと思う

具体的に何がまずいかと言えば、たとえば「糖化」の問題がある
糖化とは、でんぷんが分解されてブドウ糖などの糖類になることだが
この過程をしっかり通っていないと十分な糖分が生成されない
糖分は、発酵肥料つくりをする微生物のエサになるものだから
これが不足すれば微生物の働きは悪くなって、肥料作りに支障が出る
そして、しっかり糖化しているかどうかの目安になるのが発酵温度
米ぬかや油かすなどの有機物に水とこうじ菌を加え
しばらくすると、甘い香りがして温度が上がり始めるが
薄上氏の本では、発酵温度は70度まで上がることが目標とされている

   「デンプンが糖化していく工程の中で発酵温度が70度まで上昇しなければ
   糊化(デキストリン=ご飯を炊いたときに出るノリ状のもの)が進まないからです
   糊化の段階を経過しなければ糖化作用は進まないのです」


ところが、わたしが何度作ってみても、発酵温度は最高56度までしか上がったことがない
これは、薄上氏の材料が数百キロにも及ぶのに比べて
わたしのような素人が作る場合は、ほんの数キロしかないからかもしれないが
だったら材料が少ない段階でもう発酵肥料は確実には作れないということだろうか?!
この疑問が、わたしの発酵肥料作り挫折の大きな原因になっていく、、
いや、もしかすると、もっとアバウトに考えても良いのかもしれないけれど
自分の作ったものから期待する結果が得られないということは
何か根本的なところで問題があるのは確かだと思う

また、前述の臭気の問題も大きい
タンパク質が分解されてアミノ酸にとどまってくれればいいものを
更に分解は進んでアンモニアにまでなってしまうのを止めることもできなかった
こうして、芳醇な香りの発酵肥料からは程遠く
アンモニア臭ぷんぷんの単なる「ぼかし肥料」をわたしは作っていたようなものだ

他にも、自分が作っているものは本当にマトモなのか?と疑問を持つ問題は色々生じた
作り始めて第一段階において生えてくるカビも
常に好都合なこうじ菌ばかりであるとは限らない
カビ(糸状菌)には深刻な病気の原因になるものも多々ある
生えてくる雑多なカビを見てわたしは何度も考え込んだ
これって大丈夫??

当然自然界がすべて人の都合で動くわけはなく
思わぬ事態が起これば人はそれを脅威と呼び、自然は厳しいと言うけれど
実際には人が自然を知らず、侮っているに過ぎないわけだ
微生物と向き合えば向き合うほど、疑問は次々に出てきて
わたしは自分が作っているものが一体何物なのか
だんだんやっていることに行き詰まりを感じるようになっていった

こうじ菌による糖化作用(第一段階)
→納豆菌によるタンパク質分解〜アミノ酸生成(第二段階)
→乳酸菌によるPH調整
→酵母菌によるアミノ酸、タンパク質、有機酸、ビタミン、ホルモン、酵素等の生成(第三段階)

4種類の発酵菌により三段階の過程を経てできる発酵肥料は
季節・環境・原材料の種類と量など、様々な要因によって出来が左右されるデリケートなもの
チッソ:リン酸:カリのNPK比についても
単純に原材料で計算したものと、実際にできた発酵肥料のそれはかなり違っていると思われる
そこには数字に表れない生成物が色々あるはず
それほど発酵肥料には未知の部分が多く
人為的に都合よく操作するのは容易いことではない・・・というのが実感するところ
更には、これを使いこなすことも、土壌の状態や気候などによっては
かなり苦戦することもあるだろう



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